第1回は、ふだんの会話で損をしないスキルの勉強にもなります。

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三浦しをんさんの小説『舟を編む』は、2009年(平成21年)からファッション誌“CLASSY”に連載され、2011年(平成23年)単行本が刊行されました。2012年(平成24年)には「本屋大賞」を受賞。

2013年(平成25年)映画化。「日本アカデミー賞」では、最優秀作品賞、最優秀監督賞(石井裕也)、最優秀主演男優賞(松田龍平)、最優秀脚本賞(渡辺謙作)、最優秀録音賞(加藤大和)、最優秀編集賞(普嶋信一)、優秀主演女優賞(宮﨑あおい)、優秀助演男優賞(オダギリジョー)、優秀音楽賞(渡邊崇)、優秀撮影賞(藤澤順一)、優秀照明賞(長田達也)、優秀美術賞(原田満生)、新人俳優賞(黒木華)と賞を総ナメする勢いの高評価を受けました。

そして10年の歳月を経て、NHK BSで『舟を編む』がドラマ化され、第1回が2月18日(日)NHK BSでオンエアされました。

2013年の映画『舟を編む』を観て、筆者は慌てて原作も読みましたが、既に10年以上の歳月が経過。流石に記憶も些か曖昧になっています。

しかし、NHKの『舟を編む』を観て、全く新しいドラマを観ているという印象でした。

あ、ここで簡単にNHKドラマ第1回を紹介しておきます。

原作で言えば後半(光文社文庫版では「四」P..186以降)、映画は2008年になっていましたが、NHKドラマは2017年、大手出版社玄武書房のファッション誌編集者だった岸辺みどり(池田エライザ)がファッション誌廃刊によって辞書編集部に異動するところからドラマが始まります。

社食でファッション誌の仲間とランチする岸辺みどりに奇妙なな社員が奇妙な質問をします。みどりには何が起こったのかわかりません。この後、みどりは辞書編集部への異動を告げられるのです。

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池田エライザさんは御存知の様に背が高くて超美人、まさに人気ドクモ(読者モデル)出身でファッション編集者になったという役が「そのまんま」なのです。

でもタイトルに書いた様に、岸辺みどりさんは不用意な単語を日常の会話で常用することで「言語コミュニケーションでの致命的なマイナス」を抱えていたのです。

ネタバレですが、岸辺さんは「なんて」という単語を頻発していたのです。

わたし・なんて 辞書・なんて 朝日・なんて・・・・

辞書編集部に異動した日、社食で奇妙な質問をした奇妙な社員が辞書編集部の主任、というか唯一の先輩社員として営々と12年間一人で編集作業をしている馬締(まじめ/野田洋次郎)だとみどりは知って驚きます。

辞書編集部で事務を担当する契約社員の佐々木(渡辺真起子)、そして学生アルバイトの天童(前田旺志郎)に迎えられた岸辺みどりは「理解できない世界」に異動した事実に直面します。

みどりの歓迎会で、馬締を定年退社する自分に代わって辞書編集者として抜擢した車外編集者の荒木(岩松了)から「右の語釈」を訊かれます。それにみどりは、紙に「→」と書いて示しました。

みどりは中型辞書『大渡海』の監修者で国語学者の松本先生(柴田恭兵)からその発想の柔軟さを賞賛されますが「何故、周囲から誤解されるのか」と悩む彼女に先生は彼女が多用する言葉「なんて」について辞書で調べる様にアドバイスします。

トップ画像は歓迎会の帰り、みどりが「自分に辞書作りの才能なんて本当にあるのか」とバス停まで送ってくれた馬締に問うたシーン。日常的に持ち歩く中型辞書を手に馬締が応えています。

帰宅したみどりは、前夜言い争いをした昇平(鈴木伸之)が出て行ってしまったコトにショックを受けます。

そしてここが第1回のクライマックスシーンだと思いましたが、みどりは辞書で「なんて」という言葉を調べるのです。そして彼女は自分の過ちに気付くのです。

実は、普通に観た後、改めて「NHK オンデマンド」で丁寧に全体と細部を見直すことで筆者は「ニャルホド!」と納得したのです。

このテレビドラマは、細部がものすごく丁寧に作り込まれています。ふつうに流して見るだけでも十分楽しめますが、細部を丁寧に観ていくと細やかな仕掛けがたくさんあるコトに気付いて何倍も面白いのです。

まず、ご自分で、探してみてください。噛めば噛むほど味わい深い瞬間が見つかるかもしれませんよ。

こんなドラマの楽しみ方って、映画ファンが何度も繰り返し自分の気に入った作品を観る理由が分かる様な気になりませんか?

そしてオープニングのシーンでは「語釈」がスーパーインポーズされていたシーンになります。昇平と二人で行った海の日の出を見ながら涙するみどり。

その後、出社したみどりは、馬締に「右」の語釈を個人的な体験として伝えるのです。

辞書作りとは、言葉に真摯に向き合うことだとみどりは理解したところで第2回に続きます。

文:住田至朗

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